石川県・和倉温泉にある「加賀屋」は、全国の旅行会社が投票する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で何度も第一位を獲得、名実ともに日本一の温泉旅館として、全国から多くの宿泊客が訪れています。

その「日本一のおもてなし」には、客室の美しい設えも欠かせません。
今回は、和の伝統を受け継ぎながらも、美しさと使いやすさを追求した客室の水まわりリノベーション事例をご紹介いたします。
 
 
 

客室の浴槽を撤去し
ラグジュアリーなシャワールームへ

多くの旅館が「今後のリノベーション」をどうするかという課題を抱えています。
古さが味わいになるケースもありますが、単に老朽化に見えてしまうようだと宿泊客の満足度も下がります。

そこで「リノベーション」を行うことになるのですが、旅館らしい和の伝統をどこまで残し、どこまで新しさを取り入れるのかが問題になります。
たとえば大型テレビは必要か、ベッドは必要なのか、など海外からの宿泊客の過ごしやすさを考えると悩むところです。
とくに加賀屋は本格的な数寄屋の風情を大切にされています。
客室には床の間があり、数々の建築上の約束事の上に成り立っています。
リノベーションといってもこの約束事を崩してしまうと、もう日本間とは呼べなくなってしまいます。

加賀屋本館では、その問題のひとつの答えとして、客室の水まわりを中心に大胆なリノベーションを行いました。
浴槽を撤去し、ラグジュアリーなシャワールームと洗面スペースを設置、こうして伝統的な数寄屋の風情とモダンな水まわりが共存した空間となったのです。

これまでは、旅館の客室にはコンパクトなユニットバス、シャワーがあり、洗面台がありました。
しかし、温泉旅館にやってくる宿泊客は温泉を求めて遠くから足を運ばれ、大浴場や露天風呂を利用されます。
そのため露天風呂にはこだわっても、客室の水まわりは見過ごされているのではないでしょうか。

今回の浴槽撤去には、単に大胆なリノベーションということ以上に温泉をゆっくり楽しんでもらいたいという旅館側のメッセージを伝えることにも一役買っています。


 
 
 

女性が嬉しい「広緑」
一体感のある広々とした水まわりスペースを確保

従来のユニットバス、洗面、トイレの組み合わせは、空間が分断されるため暗く狭い印象を与えます

そこで注目したのが「広縁」です。
広縁は窓際の細長いスペースで、室内と障子などで仕切られた部分のこと。
多くの旅館では、その広縁に小さなテーブルと椅子を二脚置き旅館ならではの寛ぎのスペースとなっていますが、じつはあまり機能していないことも多いというのです。
そのようなお客様の声を元に見直したのが加賀屋本館の水まわりスペースです。
ここから水まわりと広縁までを別の空間として広がるようにリノベーションされた客室が生まれました。
具体的には、広縁と水まわりを分けている敷居を取払い、一体の空間として広がるようシャワー、洗面所、トイレスペースを同じ床材で統一し、他の旅館にはない空間の広がりを演出したのです。

広々とした水まわりを喜んでくれたのは女性客でした。
女性客はスキンケアやメイクのために洗面所に長く滞在します。
女性グループでの宿泊なら、朝の時間など複数人で同時に使用することもあるはず。
そのときにゆったりとした居心地のよいスペースがあれば旅はより想い出深いものになるでしょう。

先述した通り、水まわりは宿泊客にしっかりチェックされます。
とくに使用時間の長い女性客は評価が厳しくなりがちです。
大浴場や料理とは別の側面でその旅館のおもてなし力を測る大きな要素が水まわりといえるのです。

広縁は、旅館ならではのスペースとして認知されていますが、水まわりと一体感のあるスペースとし、ゆったりとすわれる椅子を置くことで、くつろぎのスペースに生まれ変わります。
実際に宿泊されたお客様の評価も高いとのこと。
思い切った戦略がここでは功を奏したといっていいでしょう。

 
 
 

和を意識した
美しい水まわりアイテムの採用

最後は細部へのこだわりについて。

日本間のリノベーションというと、床、壁、天井をきれいにすることがリノベーションだと思われることが多いようです。
しかし、床、壁、天井をきれいにした空間にもともと使っていた家具をもう一度戻してみると、もとの通りの印象になることが多いのだとか。
つまり新しさを感じるのは決して床、壁、天井ではないということなのです。

ヨーロッパの一部地域では、建物が文化財に指定されていることも少なくなく、大規模な建て替え工事は行なえません。
そこで行われるのがリノベーションです。
ここでいうリノベーションとは、その部屋に置く調度品のレベルを上げることなのです。

そこで注目したいのが、水まわりの器具です。
じつは老朽化で一番目につくのは、水まわりです。
室内をどれだけリノベーションしても、ついている蛇口が古く、10年、20年前のものであれば新しさ、清潔さを感じられなくなってしまいます。
リノベーションの際は、水まわりの器具といった「まだ使える道具」も更新が必要です。

加賀屋のリノベーションでは、水まわり器具も和の空間にマッチしたものが採用されています。

とくに目を引くのが、黒をベースにした器具の存在です。
一般的に水まわり器具に多く使われているは、クロムメッキですが、このクロムメッキの光沢はあまり和の空間になじみません。
できればマットな質感で、色味もダークな方が和の雰囲気と合うのです。

日本には、古来黒を要所要所で使いこなしてきた歴史があります。
たとえば、桐箪笥の金具、襖の枠、漆の花器など、障子越しの薄明かりの中でも映える黒色は空間にメリハリをつけたり、品格を与えたりと、演出に欠かせないものでした。

加賀屋のリノベーションでも信楽焼の洗面器にマッチしたマットな風合いの黒い水栓が使われています。
これが一般的なクロームメッキだとしたら、この雰囲気は得られなかったでしょう。
ちょっとした違いですが、空間の品格に大きな影響を与えます。
和でありながら、モダンを印象づけ、細部へのこだわりを感じさせてくれる仕上がりとなりました。

 
 
 
水まわりを中心に温泉旅館のリノベーションの事例をご紹介してきましたがいかがだったでしょうか?
リノベーションというと内装に意識が行きがちですが、水まわりこそリノベーションの成功にとって欠かせないポイントとなります。

大胆な水まわりのリノベーションは、他の宿との差別化にもなり、話題性も期待したいところです。

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