水草から生まれたジン「MAWSIM」 <後編> <br>環境課題を“商流”に変える、サンウエスパの挑戦

水草から生まれたジン「MAWSIM」 <後編>
環境課題を“商流”に変える、サンウエスパの挑戦

岐阜を拠点に再生資源卸売業を手がけるサンウエスパは、カンボジアに繁殖する外来水生植物からエタノールを製造し、クラフトジン「MAWSIM」を生み出した。World Gin Awardsで金賞を受賞し、「ワールドベストジン」に輝いた豊かなその味わいとともに、背景にあるストーリーもまた唯一無二のものだ。

『未利用なもの、無価値なものを再定義する』ことをテーマに、新しい“商流”を創造することで事業を成立させてきたサンウエスパ。前編では、古紙からバイオエタノールを製造し、エネルギー化の実現に向き合ってきた事業の歩みと、水草「ホテイアオイ」との出会いをたどった。
後編では、再生資源卸売業を営むサンウエスパが、環境課題の解決と高付加価値商品の開発をいかに両立させ、ビジネスへと転換してきたのか。その思考と挑戦の現在地を追う。

エネルギーから、アルコールへ
エタノールに高付加価値をつける

2017年6月、サンウエスパはJICAのイノベーション枠に、東南アジア最大の湖トンレサップ湖における「未利用水性植物のバイオエタノール化に関する案件化調査」を提案し、採択を受けた。

「このイノベーション枠は新しい取り組みに挑戦できるという制度です。2017年から1年間、調査を続けました。そこで分かったのは、エネルギーとして成立させるためには、あまりにもコストが高いということでした」

最初の実証実験では、エタノール1リットルに4000円。実験を重ね、最終的には500円〜1000円程度まで下げることはできたが、競合はガソリンだ。リッター100円を切らなければ、エネルギーとして需要が生まれない。この壁を超えるには、数十億規模の大型プラントが必要だった。

「海外には大規模なものもありますが、リッター250円ほどが限界で、政府の補助金があって成立するもの。中小企業が単独でできるものではないと思いました」

補助金ありきの環境ビジネスではなく、きちんと“商流”のなかで成立する事業をつくること。それが、原さんの事業化するうえでの揺るぎない考えだった。では、エネルギーではないエタノールの使い途はないか。JICAの調査が終了する頃には、別の道を考え始めていた。

「エタノールの用途はシンプルに言えば、燃やすか、消毒するか、飲むか。一番価値の高いものは香水、そして次に高いのは、お酒にすることです。ちょうどその頃、クラフトジンが世界的なブームになっていました。カンボジアには、胡椒やカルダモンなどの香辛料や美味しい南国フルーツがたくさんある。それらで風味をつけて、エタノールからジンをつくったらいいんじゃないかと思ったんです」


日本大使館とカンボジア州政府との共同PJによって竣工された、ホテイアオイ原料によるエタノールプラント

燃料としてのエタノールは、リッター100円以下でなければ成立しない。一方、酒として流通するアルコールは、アルコール度数100%に換算すると、リッターあたり数万円相当の価値を持つ。

「同じエタノールでも、用途を変えるだけで付加価値は200倍近く変わります。僕たちが掲げる事業のテーマは、『無利用なもの、無価値なものを再定義する』ということ。僕たちには、環境課題という“エサ”あって、それをどう食べ、高付加価値商品につくり替えていくか。これを、企業としてやっていくことに方向性を定めています」

美味しいジンをつくりたいからやっている訳ではない
ジンは、環境課題を解決するひとつの手段

「僕らは美味しいジンをつくるために『MAWSIM』というブランドを運営しているわけではないんです。ジンは、目的ではなく、あくまでひとつの手段。『無利用なもの、無価値なものを再定義する』。そのためのジンづくりです」

実際、ジンをつくること自体が目的であれば、水草由来のエタノールを使う必要はない。世界で評価されたのもバックストーリーではなく、味そのものだった。


トンレサップ湖。見渡す限り、ホテイアオイで覆われている。トンレサップ湖には100万人ほどの水上生活者がある

「水草を使うことで、どうやって水草の匂いを消すかということに取り組むことになる。もうひと手間が必要になるんです」と言う、原さん。

収益性だけを考えれば、わざわざ選ぶ必要のない道だ。それでもなお、水草を原料にすることに意味がある。それは、環境課題を高付加価値なものへ転換することに、サンウエスパの存在意義があるからだ。


ナッツを収穫する際に廃棄されるカシューアップル これもバイオエタノールの副原料に


プノンペンの隠れ家BAR。マウシムがずらりと並ぶ


MAWISMのボトルは、ひとつとして同じ色がない。青から緑へと色を切り替える製造工程で生じる色の揺らぎにより、通常は廃棄されてしまうボトルを活用している

では、この技術を、日本でどのように応用していく考えがあるのだろう。すると、意外にも原さんから、「日本で、水草を使ったジンをつくるつもりはない」と、はっきりとした答えがかえってきた。
「僕らには、特別な技術があるとは思っていません。自分たちは、エタノールを専門にしているわけでもない。だから、水草の問題をエタノール化で解決しようとは全く考えていないんです。水草をエタノールに変えること自体、大変コストのかかることで、持続可能ではないと思っています。
7ヶ月で200万倍にも成長するホテイアオイを、僕らがどれだけ減らせられたのかと聞かれることがあります。でも、正直、影響はほとんどない。それでも続けているのは、問題提起はできていると思っているからですね。最近、日本でもメディアなどで、外来水草の話題が取り上げられるようになりましたよね。あれは、僕たちがきっかけになっているところもあるんじゃないかなと思っています」
そういうと、原さんは少し満足そうに微笑んだ。

環境課題をビジネスにするために必要なのは、
循環に新たな矢印を描き、商流へと変えるクリエイティビティ

では、改めて、日本で展開する場合、水草の問題に対して何が効果的なのか。

水草の処理方法には、さまざまな選択肢がある。原さんは、温室効果ガス(GHG)、コスト、そして得られる価値(ベネフィット)の3つを軸に「環境評価」という視点で見直し、それが本当に意味のある循環になっているかどうかを判断してきた。そうした検討を重ねたうえで、現在、日本で取り組んでいるのが「炭化」だ。水草を炭にすると炭素は固定され、GHGはマイナスになる。低コストで始められる点も大きい。


水草を乾燥させ、粉砕、加熱処理をし、バイオ炭にする

「水草を炭にすると、農業の現場では炭はとても役に立ちます。炭を農地に施し、そこで育った作物やボタニカルを、また別の価値あるものへと変えていく。ただ、僕らとしては、炭にするだけでは付加価値が足りない。だから、それをどう面白く活用できるかを考えています。
たとえば、炭をキノコの菌床として使い、役目を終えたら家畜の敷料にする。ポルチーニやトリュフ、マツタケといった、菌根菌と呼ばれる“生きた木に寄生するキノコ”を半栽培のようなかたちで育てられたら面白いですよね。水草が、最終的にトリュフになりました、ということもできるかもしれない」


日本においても、外来水植物を取り除き、止水環境を回復するために活動する「MAWSIM号」(琵琶湖での作業風景)

水草から、ジンへ。そして炭へ。さらに農業や食へとつながり、次の価値創出へ。サンウエスパのクリエイティビティは、循環を連続して設計することで、新たな商いの流れを生み出していくことにある。

「古紙が紙になる、紙が古紙になる。この単純なサイクルはすでに成立している。今、ゴミになってしまうものは、このサイクルから外れているからゴミになる訳で、もっとこの線を複雑にしていけば成立すると思うんです。
エコシステムをデザインする感覚ですね。サプライチェーンを組み替えることで、これまで世の中に存在しなかった事業を生み出していく。矢印ひとつにも意味があり、それをどう整理し、どうつなぐか。その1本1本の束が収益性となり、本当の意味での持続可能性となります」

ホテイアオイを起点としたエコシステムの図。原さんたちは、線を加え、ときに線を書き換えながら、エンドユーザーへと“価値を届ける”矢印を引き続ける。

段ボールのリサイクルを、山に還元する
岐阜を元気に、という想いから生まれた「ぐりんく」

最後、岐阜という地域で長良川のすぐそばに暮らし、事業を営む原さんに、この地域への思いを聞いてみた。

「地域に根ざしつつ、世界を見据える。これは、昔から僕らのミッションのひとつなんです。カンボジアに意識が向きすぎると、もっと岐阜の事業をちゃんとやらないといけないと思うし、逆に岐阜にのめり込みすぎると、保守的になってしまう気もする。両方を持ち続けるバランスが重要だと思っています」

ローカルとグローバル。その両方を見据える必要があると語る原さん。今、ローカルでも新たな動きが始まっている。それが、2025年10月、サンウエスパが発表した新サービス「ぐりんく」だ。環境(Green)を通じて、岐阜(Gifu)を元気(Genki)にし、地元がつながる(Link)。その想いが、この名前には込められている。
「ぐりんく」は、企業で発生する段ボールをリサイクル資源として扱うだけでなく、地域へと還元する“媒介”として捉え直す仕組みだ。企業から回収するダンボールは重量に応じてポイント化され、地元の学校への寄付や森林保全というかたちで地域へと循環していく。


企業から回収した段ボールは、通常であれば買取金額として企業に戻される。その対価を、学校への寄付や森林保全へあてる

段ボールの回収を通じて、企業から寄付されたボール。
ぐりんくは、地域企業の「地元に貢献したい」という想いと、学校の「キャリア教育の場をつくりたい」という思いをつなぐ

「企業から回収した段ボールの対価をポイントとして蓄積し、一定量がたまると植林できる。そんな仕組みを、ぐりんくで描いています。紙は、もともと植物からできています。古紙から出た利益を山に還元できれば、地域の山も豊かになり、川もきれいになって、水の循環もよくなる。企業が出した古紙が山へと戻り、“企業が植えた木”として成長を見守っていく。そんな循環がつくれたら良いなと思っています」

実は、原さんは入社した当初から山への思いを抱いていたという。製紙会社の多くが保有林を持つように、紙と山は切り離せられない関係にある。

「戦後に植えられたスギ・ヒノキは、すでに60年、70年という年月を経て、これ以上は大きく成長しない段階に達しています。光合成によるCO₂吸収よりも、呼吸による排出の方が上回り、脱炭素という意味では機能していない山も少なくないと聞きます。人が山に入らなくなったことで、獣害や土砂崩れといった問題も起きている。近くにこれだけの資源があるなら、活かすことを考えたいと思っています」


岐阜中心部、長良川から見上げた金華山。山の頂上には岐阜城が見える

そのためには、人と山をつなぎ直し、人が森のなかに入る関係性をデザインすることも必要だ。
夏は今でも長良川で泳ぎ、冬の寒い時期でも週に3日は川へ足を運ぶ。長良川に生息する魚やその餌を採り、自宅で長良川の環境を再現しているという原さん。日々の暮らしのなかに長良川がある。その川の水を綺麗にするのが、山から流れる伏流水だ。

「MAWSIMができたことで、森のなかにバーカウンターがあったら素敵だろうなと思うようになりました。ぐりんくの活動から生まれた森で自然を体験し、宿泊でき、その場所にバーがある。そういたイメージが、ぐりんくの構想にしっくりとハマった感覚があります。
自分が子供の頃に体験した川遊びの風景、水辺の景色が変わらずに残ってほしい。自分たちの取り組みで、その風景を守り、回復させることに少しでも貢献できればやりがいを感じますね」


山のすぐそばに川が流れる。長良川は非常に高い自浄力を持ち、市街地でも天然の鮎が獲れることで知られている

“ゴミという概念を洗い流す”。
これは、サンウエスパがこれまでに掲げてきたテーマのひとつだ。そのために必要なのは、ひとつの答えを出すことではなく、流れを生み出すこと。サンウエスパの仕事は、社会に水路を広げていくように、人と人、ものとをつなげ、次の行き先をひらいていくことなのかもしれない。
これから、ひとつの企業の想いが、地域や山、そして川へと、どのような新たな景色をつくっていくのか。その流れを、楽しみにしたい。

原有匡 株式会社サンウエスパ 代表取締役
1980年岐阜生まれ。
(株)サンウエスパ代表取締役、SUNWASPA Co., Ltd. Founder CEO。
「未利用なもの、無価値なものを再定義する」をドメインに据え、岐阜と熱帯アジアで事業を展開する。MENSA会員。

SUNWASPA公式サイト:https://sunwaspa.com/
MAWSIMブランドサイト:https://mawsim.shop/
MAWSIM Instagram:https://www.instagram.com/mawsimjp/

Photo Masataka Inada
Texit/Edit Michiko Sato

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