SANEIの水脈を探る、西岡利明社長インタビュー<後編>
「SANEIは、水と人をつなぐ企業であること」
企業には、それぞれの時代を生き抜いてきた物語がある。挑戦の積み重ねが企業風土を育み、その精神は“水脈”のように大地を潤してきた。
「人類ある限り、水は必要である」。創業以来、その言葉を掲げ続けてきたSANEIには、どのような水脈がとおっているのか。西岡社長の言葉から、その源流と未来をたどる。SANEIと、「水とつなぐ」物語。
前編で語られたのは、企業としてのルーツと、「選ばれるものづくり」への転換。中編では社員の誇りを育む、ものづくりの美学と深化をたどった。そして、最終章となる後編では、水まわりの“点”(製品)から“線”(給排水)へ、さらには“面”(空間)へと、事業領域を広げてきた展開を追う。その根底には、水の循環に携わる企業として、「水をつなぐ」揺るぎない本質があった。
『点』から『線』、そして『面』へ。
進化する事業構想
水が流れを変えていくように、SANEIの事業もまた進化を遂げてきた。創業当初は水栓器具の販売・組み立てからスタートしたが、やがて給排水システムへと領域を拡大。そして現在は、「空間全体における水栓のあるべき姿」へと視点を広げている。
――SANEIでは近年、自社の事業の歩みを『点』から『線へ』、そして『面』へという言葉で表現しています。その変遷には、どのような考えがあったのでしょうか?
「『点』とは蛇口であり、『線』とは、給排水の経路全体を指します。
住宅とは、本来、外敵から身を守り、心を安らげる“ボックス”ですが、そのなかに空気と水が流れてこそ、その空間に命が宿り、快適な生活が成り立つ。特に私たちが扱う水の流れは、人の体でいえば“血液”にあたり、給排水器具はその流れをつくるラインになります。
たとえば蛇口から出る水に異常があれば、多くの方は『水道に問題があるのでは』と考え、水道局か水栓メーカーに問い合わせます。実は、水道というのは“水道メーター”で明確に所有が分かれていて、メーターまでが自治体の管轄、そこから先は個人や企業の資産なんですよ。でも、そうした仕組みは、住む側からはわからないですよね。
そこで、水道局に連絡したとしても、調べられるのはメーターまで。それより先に異常があれば、大抵は水栓メーカーである我々に問い合わせがくるのですが、実際のところ、蛇口そのものに問題があるケースはほとんどないんですよ」
メーターから蛇口まで、家のなかで水が届くまでには、パイプやバルブ、継ぎ手などの多くの部品が介在し、それぞれが異なるメーカーの製品で構成されている。どの部分に、どこの製品が使われているのか、壁のなかに隠れてしまえば誰にも分からない。
「それでは安心して水を使える状態とは言えません。我々としても、『それはうちじゃありませんから』と言ってしまうのではダメだと思ったんです。少なくとも、メーターまでは水道局が安全を担保してくれるのだとすれば、その先、メーター以降蛇口までも、責任をもって安心を担保できる企業があったら、住まい手にとっては良いのではないかと。それが、『点』から『線』への発想です」

メーターから蛇口まで“線”にあたる設備
「そのようにできれば、水になにかあった時に、原因が浄水場や水道局にあるか、それともSANEI側にあるのかが、ハッキリできる。浄水場とSANEIのあいだで直接やりとりができるようになれば、それがそのまま“安心・安全”につながっていく。これは、水栓メーカーがやるべき使命だと感じたんです。蛇口は、水の流れの “出口”の部分であると同時に、住まい手との“接点でもある。だからこそ、給排水の『線』全体を一貫して担うべきだと考えたんです」
空間のなかに存在する。
水栓メーカーとしての新しい暮らし方の提案
さらに現在、SANEIが向き合うのは「空間全体のなかで、水栓がどのようにあるべきか」という視点だ。
――『線』からさらに『面』へ。空間全体へと広げた背景には、どのような考えがあったのでしょうか?
「先ほどもお伝えした、住まいという“ボックス”にとって、水の流れは血液を巡らせる “設備”にあたるんです。基本的に、設備は壁や床に隠れて見えない部分ですが、そのなかで唯一、空間に姿を現すのが“蛇口”です。つまり水栓は、機能であると同時に、空間の一部としてどう見えるかまで問われる存在なんです」
暮らしの空間は、時代とともに変化してきた。かつては分かれていたリビング、ダイニング、キッチンは一体化され、広々とした一体型のLDKが新しい住まい方の主流となった。そこに人気が高まっているのがアイランドキッチンだ。


「広いLDK空間のなかで、キッチンは作業場というだけではなく、家族の中心的な場所になってきています。水栓は単なる設備ではなく、空間に存在する要素として扱われるようになってきました。であれば、その“佇まい”や“デザイン”も含め、空間のなかでどうあるべきか提案ができるメーカーでなければならない。
キッチンメーカーが考える水のあり方があるように、水栓メーカーだからこそ“安心・安全”という性能を備えた水のあり方を提案するかたちがあるのではないかと。そう考えて、私たちは空間という『面』へと、事業領域を広げてきました」
暮らし全体のなかで「水栓がどうあるべきか」を再構築する。それが、空間という『面』への転換へとつなげてきた。その一環として提案されているのが、「B・LDK(Bath・Living・Dining・Kitchen)」「P・LDK(Powder・Living・Dining・Kitchen)」といった新しい暮らしのスタイルだ。

B・LDKのイメージ
「最近では、お風呂を一番景色の良い場所に置かれる家も増えているんです。でも、家族4人いたとしても、お風呂を使うのは1日2〜3時間。それ以外の時間は使わない空間になってしまう。それなら、眺めの良さを活かして、バスルームもLDK空間のなかのインテリアに取り入れたらどうか。それが『B・LDK』。『P・LDK』はリビングと洗面や脱衣所を融合させるという考え方。洗面所も使っていない時間は、ただそこにある空間となってしまう。それなら洗面をリビングの一角に置き、必要な時には扉で仕切れるようにすればプライバシーの確保にもなる。お風呂も洗面も脱衣所も、LDKの一部になっていく暮らし方はこれからもっと広がっていくと思うんです」
家のなかの「水のある景色」を美しく、機能的に、そして暮らしのなかへ溶け込ませる。そうすることで、日々の暮らしにもう一段、豊かさをもたらすことができる。
『点』からスタートしたSANEIの事業は、『線』で安心・安全を届け、そして『面』では暮らしの豊かさを描いていく。その歩みは、世の中にまだない新たな住まいの風景をつくりだしていく。
水とつなぐ。
SANEIの変わらない役割
ここまで、SANEIの歴史、ものづくりの精神、そして事業領域の拡大の軌跡をたどってきた。最後に、西岡に水栓を扱う企業としての未来について聞いた。

――SANEIがこれから描く未来とは、どんなものでしょうか?
「もともと、地球上の水の総量は、46億年前に海ができたころからほとんど変わってないんですよ。その限られた水を、どうやって生活や飲料に使える状態に変え、循環させながら活かしていくか。人間はそうやって生きてきました。
これから先、もしかしたら水栓のかたちが変わるかもしれないし、ひょっとしたら水栓という概念がなくなる日がくるかもしれない。だけど、“水を出すところ”は絶対になくならない。人間が生物として活動する限り、必ず水は必要です。だからこそ、水がある限り、我々は提案し続けるということになります」
その言葉は、「人類ある限り、水は必要である」と掲げたSANEIの社是につながる。
「水栓メーカーとしての使命は、“生きるための水を供給すること”に尽きる。その本質は、“出し止め”の技術にあります。デザインとかレバーの形といったものは二の次で、あくまで付加価値。最も大切なことは、我々の商品を通した水に不純物が混ざったり、体に害を与えるような水にしてしまうことがあってはならない。そこを徹底しながら、必要なときに、必要な品質の水を、必要な量と適切な温度で、必要な場所に届ける。それを支える技術に、これからも真摯に向かい続けなければなりません。
空気もかなり技術が進んでいますよね。特にこれだけ地球温暖化で気温が上がってきたら、空調がないと生活できないと思う。そしてやはり、水もそうあるべきなんです。これから地球環境がどうなろうと、飲み水だけは人の命に関わる領域として、担保しなければならない。
人は、その土地の水で生きている。親も、祖先も飲んできた“流域の水”こそが、その人にとって最も有益なんです。地元の野菜や果物、家畜を食べて生きる。それらすべては地元の水で育まれています」

自然の水の流れは蛇口へとつながっていく
海外で「水が合わない」と体調を壊すことがあるように、水には土地ごとの個性がある。日本でも古くから「産湯が違う」「水が合わない」と言った言葉があり、人の性質や土地との相性を水で表現してきた。水が人の気質に影響を与えるという感覚を、日本人は昔から持っていたのかもしれない。その土地に生きる人にとって、その水こそが“マザーリバー”となる。
「川の流域によって、多種多様な国民性、民族性が育まれてきました。水が違えば、文化も人も変わる。多様性は、水の多様性によって生まれるのかもしれません。日本には豊かな山があり、川があり、その土地ならではの自然が人の暮らしをかたちづくってきました。
ただ一方で、国土に高低差が大きいため、水がとどまりにくく、雨が降ってもすぐ海へと流れてしまう。だからこそ、ため池やダムといった水を蓄える場所が非常に重要になってくる。1億2000万人が暮らすこの国で、気候変動で天気が不安定にあっても、水を安定して供給できる備えがなければいけません。そして、我々水栓メーカーが果たす役割は、各流域の浄水場から送られる水を、なるべくそのままの状態で、安全に使える技術を提供すること。日本の風土から送られる水をつなぐ存在として、これからもあり続けたいと考えています」
水がある限り、SANEIの提案は続く。その強い思いは、変わりゆく時代のなかでも、SANEIという風土をかたちづくる大河のように流れ続けていく。
西岡 利明
1958年、大阪生まれ。近畿大学卒業後、オリエント貿易に入社。82年に三栄水栓製作所(現SANEI)に入社し、取締役、常務取締役を経て、2003年から大連三栄水栓有限公司 薫事長就任、2004年代表取締役社長就任。
Interview & Text by Michiko Sato