信楽焼は、茶の湯の道具として愛されてきたことからもわかるように、使われることで実感できる美しさ「用の美」を持っています。
その用の美を存分に発揮しているのが手洗い鉢です。
SANEIの「利楽」シリーズでおなじみの手洗い鉢が実現したのは職人の兄弟ふたりで営む窯元が誇る技術でした。開発の中心を担った晃治さんのお話を伺いました。
―――今や信楽焼の手洗い鉢は和の空間に情緒を添えるため、外資系高級ホテルからも指名されるアイテムとなっています。取り組もうと思ったきっかけを教えてください。
晃治さん:方々の作家さんがすでに手洗い鉢を作っていましたけど、その中で建築の材料として流通量を確保できるのは当社しかないという確信でした。
―――手作りで流通量を確保というのは簡単ではありませんよね。工場で作る量産品に対抗していくことが可能だと確信されていたのはどのような理由ですか?
晃治さん:我々が作るものは、数を多く作るという意味では、量産品ともいえますけども、やはり機械で作ったものじゃない、あくまで手作りです。
手作りの中でどこまで迫れるか、それが我々ならば確保できるんじゃないかと。
型取りして、それしか売らないではなしに、もっと自由なサイズ、形を実現できる、そういう製作が可能な職人としての技量が我々にはあります。
まあ、兄弟でやっていて、両方ともろくろ師ですので、臨機応変に対応できるということです。ただ単に機械生産でなしにお客さんの求めに一本ずつ対応できると同時に「手洗い鉢を200台ください」と言われてもすぐに対応する、量産も可能なのです。
―――「手洗い鉢=洗面ボウル」ということで、排水口をつけたり、オーバーフローを付けたり、いろいろな洗面ボウルとしての必須の規格があります。このあたりの洗面の工業製品にするという部分での工夫がありましたらお聞かせいただけますか?
晃治さん:工業製品に、我々手作りのろくろ師が対応していくことは、ひとつの課題でした。
ですから金具関係、そして排水関係、これらをクレームのない状態に仕上げなければなりません。
まずネックがどこにあるかということを調査して、そしてこれでいけるだろうというところまで追い込んで納得いく品質を求めました。
―――「利楽」という名で展開してらっしゃいますけれど、この名前の由来やコンセプトを教えていただけますか?
晃治さん:「利休好み」というのが信楽にはございます。わび茶の完成者・千利休さんはやはり信楽にいらしたんです。自分の製作のために。
その理由は、「スカーレット」というドラマのタイトルにもなった独特な黄みがかった赤です。これを利休さんが好まれて。(手元の手洗い鉢を指して)スカーレットは、鉄粉がよく出てこのように白い部分から火にかかった部分によく出ます。これは、そこに松の灰がかかったり、ビードロ(緑色のガラス質の釉薬)がとろっと出た状態ですね。原始的な焼き物のなかにもそういうものがあります。
それで私ども、その製品を、手洗い鉢の中に利休好みの信楽焼、手洗い鉢として再現していっているわけなんです。利楽の由来はそういうことになっています。
スカーレット(火色)とは?
信楽は、付近の丘陵から良質の陶土がでる土地柄である。長い歴史と文化に支えられ、伝統的な技術によって今日に伝えられて、日本六古窯のひとつに数えられている。
信楽特有の土味を発揮して、登窯、窖窯の焼成によって得られる温かみのある火色(緋色)の発色と自然釉によるビードロ釉と焦げの味わいに特色づけられ、土と炎が織りなす芸術として“わびさび”の趣を今に伝えている。
火色(緋色)
―――今回、SANEIと組まれていろんな展開をされていますけれど、SANEIは御社にとってどんな位置づけ、どんな存在でしょうか?
晃治さん:我々は小さな存在であり大手に入れるだけの大量生産はできません。かといって、手作りの作品を安売りはしたくはありません。SANEIさんとはそこの感覚がマッチしたように思います。
今後、機能性にすぐれたデザイン、ストレスのない使い心地、見てただけで素晴らしいと感じられる手洗い鉢を共同で開発できると思ってます。