NHK連続テレビ小説「スカーレット」で話題を集めた焼き物の里・信楽。
今回はSANEIの手洗い鉢「利楽」シリーズをともに担う窯元にうかがいました。
伝統を現代のライフスタイルに生かしていくか。
ご兄弟そろって信楽焼伝統工芸士として伝統を今に伝える重責を担う利楽制作窯元おふたりのインタビューをお楽しみください。
―――信楽焼の特徴はどんなところにありますか?
宏重さん:まず第一点目に土の素材が白い。鉄分とかが混ざっていないんですね。
そして二点目は、信楽の素材は「大物」に適していると。「大物」とは、一般的に縦、横、高さが30cm以上の陶器を指します。大物に適しているとは、信楽の土は、成分的にもその「大物」を作りやすい素材といわれています。
―――これまでどんな大きなものをこれまで作ってきましたか?
宏重さん:高さが90センチくらいあるものとか、たとえば1メートルくらいあるやつとか。30センチ以上のものです。最近ではホテル関係、旅館の客室に入っているお風呂とか、そういうような大きなものを作っています。
左:火色古信楽 25号 右:大甕黒ビードロ 20号
「大物づくり」とは?
大物陶器とは、縦、横、高さが30cm以上の陶器の総称であり、生産には通常の陶器とは異なる高度な技術が求められます。
大物陶器の産地としては信楽の他に常滑(愛知県)と大谷(徳島県)があります。
常滑は信楽に次ぐ大物陶器の産地ですが、陶土を信楽より購入しており、原材料に関する配合ノウハウやコスト競争力といった観点から、信楽に優位性があります。
大谷は信楽より大物ロクロの技術を導入し大物陶器の生産を開始した経緯があり、生産規模が小さく、比較できる規模ではありません。
このような理由により、大物陶器の生産地としての信楽焼の優位性が高いことがわかります。
―――こちらの窯は、その大物づくりに特徴があるのですね?
宏重さん:私自身が信楽の代表的な大物づくりというものを修行してきて、そのなかで職人気質になっています。小さな器だけでなく、ある程度大きなインテリアとして生活に溶け込む品を作っています。他の陶器産地にはあまりない、そういった特徴が今の時代に合ってきているということだと思います。
―――その大物づくりの技が生かされた水琴窟について教えてください。
水琴窟というのは、本来庭に設置するものですよね。しかし御社が開発されたのは、室内で楽しめるインテリアとしての水琴窟。どのようないきさつで生まれたのでしょうか?
宏重さん:以前から庭に埋める、水琴窟のかめをこしらえていたんですね。かめをこしらえてはいても、実ははじめはそれが水琴窟とはわからなかったんです。その後、水琴窟のかめだと知り興味を持ちました。据え付けたところを見に行ったり、お寺さんとかに音を聞きにいって共感を得たんです。それでどういう構造になっているのかなど、すっかりはまり込んでしまったというのが、ひとつのきっかけですね。
―――開発には、さまざまなご苦労があったと思うのですが、具体的にはどのようなプロセスがあったのでしょうか?
宏重さん:水琴窟を調べていくと庭師さんの腕でしか鳴らないということがわかりました。庭師さんが設置されて、それで鳴るか鳴らないかというものなのです。工事にも大変な費用がかかってしまいます。だったらその壺を自分でこしらえられないかなと。信楽焼のよさも出せないかなと思いました。
かめを地下に埋めているものが大半ですが、中には半地下というものもありました。だったらその壺を地上にあげてみて、インテリア水琴窟ってどうかなと思ったのです。
最初に問題になったのは水源をどないしたらいいのかなということでした。本来の水琴窟いうのは、庭に流れる水が入って出るという水の取り方が一般的なんですけれども、その水を水中モーターで循環させてあげてまばらになるようにならないかなっていうふうに思ったんですね。それはスイッチモーターで解決したんです。
そして次は反響音でした。かめの形、それともう一つ大事なのが水の落ちる状態。ここを工夫してあげたんですね。庭の水琴窟のように水がまばらに落ちるようにする方法は、かめの中に細工をして、土は吸水率の低い土を使うようにして、焼き方にも工夫しました。それで水琴窟が可能になりましたね。
―――それがあの美しい音色を場所を選ばず聞けるようになったんですね
―――どんなご評価、評判だったんですか?
宏重さん:まず展示会に出展させていただきました。2010年、福岡のギフトショー。2011年、DIYショー、それと2012年、東京ギフトショー。この三つの展示会に出展させていただきまして、高く評価していただきました。DIYショーでは準大賞いただきまして、東京では大賞をいただいたんです。
―――お客様からはどんな感想が寄せられますか?
宏重さん:3.11東日本大震災の後、被災地のお客様に送らせていただいたんです。しばらく経って、そのお客様から「うれしいですわー」って電話がかかってきたんです。「癒されます」いうて。そういうような評価、やっぱり年配の人の癒しっていうのですか、ありがとうというようなお電話いただいたときには、作ってよかったなと思いました。