群馬県の榛名山に囲まれ自然豊かな場所にあるこの独創的な家「スペースハウス」のインテリアコーディネートを担当した久保田絵美さん。
インテリアショップでの家具販売、工務店でのインテリアコーディネーターを経て、群馬県でフリーランスのインテリアコーディネーターをしている。

まずは施主のリクエストに対し、どのような空間を構成したかを見ていく。

施主のリクエスト

1.独創的な空間
「白とガラスの宇宙空間」と言うテーマ
これには玄関ホールを宇宙空間に見立てることで対応した。
正面のメタリックブルーのタイルは宇宙から連想したマテリアルを設置した。

2.豊富な趣味
ガレージやバイク、靴、DJなど趣味が豊富
お気に入りの品々を扉の中にしまうのではなく、インテリアの顔として使う。

3.生活スタイル
友人を招く機会が多い
吹き抜け部分にDJブースを設置。ここでDJをしつつ、友人がこの螺旋階段を使って行き来できるように、共有する階段を設置した。

4.特別感
他の家にないものを
特別感を求めるクライアントに対し、水栓が見えず流れ出る水のデザインが美しいmorfaを推した。

久保田さんが今回インテリアを手掛けた「スペースハウス」は、3つの階段や大きな開口部、吹き抜け、クリアな螺旋階段などが多用された明るい空間。
大胆な原色づかいやコレクションのディスプレイで彩られ、透明感の中にもエネルギーを感じられる独創的なインテリアをデザインした。


スペースハウスの吹き抜けリビング。
目を引く螺旋階段、GLASLUCEで覆われたTVなど明るくクリアな印象に仕上がっている。

久保田さんが得意とするのは、シンプルモダンや高級感のあるラグジュアリーモダン。

シンプルな中にもちょっとキラキラの照明とか、あとは直線的なインテリア、例えばつや感のある扉とか。
アイテム一つ一つ変えてくだけでも、劇的に変わってきます。

具体的には、床材を無垢にして、壁を漆喰にするだけでもシンプルモダンな雰囲気を感じさせることができる。
数少ないアイテムでモダンな雰囲気に持っていくのが久保田さんのやり方であるという。


家の中心にある階段をクライアントのアートギャラリースペースとして活用。
濃淡のあるブルー壁紙とガラスの踏板により光が差し込む洗練された空間になった。

 

プロセス

クライアントのイメージをカタチにしていくプロセスを聞いてみた。

まずは、イメージの共有をしたいですね。
インテリアのプロではないクライアントにいきなり「どういうイメージがいいですか?」って聞いても中々分からないので、写真や、物や、服、バックでもいいですし、そういうとこからプロファイリングしていきます。

アクセサリ一つとってもマット、ツヤ、それともモノトーンがいいのか、カッパーやシルバーがいいのかとか。
そういう言葉が一つ一つ繋がっていくとクライアントの理想の暮らしがだんだん見えてきます。
そうすると生活スタイル・生活様式っていうのがわかってくるじゃないですか。

朝早く仕事に出て、夕飯は家族と一緒に過ごす時間が長いとか、生活スタイルまで聞きますね。

たしかに今回の「スペースハウス」もクライアントの多趣味なライフスタイルとオープンで明るい人柄がインテリアを見るだけで感じられる。
丁寧なやりとりの積み重ねがこのコーディネートの成功につながったのであろう。

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“イメージの共有”によりクライアントの嗜好を把握し、実現した空間。

 
 

水まわりこそ、デザインで冒険すべきポイント

日本ではインテリアが独創的であっても、キッチンやバスルームといった水まわりはあまり冒険しないのが一般的。
マンションなどでは価格や間取りの制約があり、デザインで遊んだり、冒険したりする家は多くない印象だ。
その現状について久保田さんはどう思っているのか、水まわりのデザインへの興味について聞いてみた。

水まわりは「冒険できる空間」だと思っています。

と、なんとも意外な回答。こちらの認識と真逆で驚いた。

家族やゲストのいる時間が多いLDKは、自分たちの好みだけではなく客観的に見たインテリアの美しさも重要である。だから大胆なことをするにはとても勇気がいります。
 
その点、パウダールームやバスルームのようなプライベートルームは、自分たちの好きなように楽しめる空間だという。壁紙やタイルなど素材で遊んでみたり、BGMや間接照明でリラックス空間をつくったり。

さらに久保田さんは、水栓器具など機能をともなう部分についても冒険できると断言する。
たとえば水栓の色を変えるだけでも空間全体の表情が変わる。
水栓器具は壁紙やタイルに比べ小さな面積だが、その効果はあるという。


黒のシャワー混合栓cyeシリーズ。
黒以外にゴールドとシルバーがラインナップされており空間に合わせたチョイスができる。

しかし水まわりの空間は家全体とは切り離された、閉じられた空間としてデザインされていることが多い。
家全体としてトータルコーディネートする立場ではどのように対処しているのだろうか。

家づくりを始めると、自分自身やご夫婦お互いのことについて初めて知ることや、意外な発見をすることも少なくない。
奥様は「このキッチンの赤色の扉が素敵!」、ご主人は「ジャグジーのバスルームでゆったり入りたいなぁ」、「えつ、そうなの!?知らなかった」。
こういった会話を耳にすることもあるという。

インテリアコーディネーターとしてはデザインの前に、クライアントがどんな空間に囲まれていると幸せなのか、どんな素材やお気に入りのモノ・カラーに囲まれているとほっとできるのかを紐解く。
一つ一つのアイテムが重なり合い、完成された空間にもっていく為に、クライアントに対し「どうしてなのか・なぜ」と追求し、心の引出しを全部オープンにすることも大切だという。

逆に水栓は壁紙やタイルに比べクライアントからの要望が出にくい部分だとも言える。
個別のアイテムの指定がなければコーディネーターがチョイスするのだろうか。

そうですね。これもクライアントの生活様式から考えます。
たとえばバスルームに使う時間はあまり多くないというクライアントならば、その短い時間でもリラックスできるオーバーヘッドシャワーを提案することもあります。

 
 
 

水まわりの空間に求めたものとは? 
クライアントのこだわりと使い勝手は譲らない

 

水栓を選ぶ基準

そもそもインテリアコーディネーターとして水栓を選ぶ基準を改めて聞いてみた。

デザイン性も大事だが、衛生にかかわるアイテムなので、見た目の清潔感は大切。
そして機能性。

具体的には無駄な装飾のないスッキリしたもの、汚れがついたらすぐに分かって手入れができるような素材感を求める。
水栓器具は毎日触れるものなのでやはり心地よく使ってもらいたいからだ。

見た目も重要ですが、毎日の家事で使いにくいと我慢しながら使うのではなく、自分が使いやすく丁寧に使う水栓の方がいい。

 

決めて

では今回の「スペースハウス」でmorfaを選んだ決め手は何だったのだろう。

クライアントから言われたのは「他の家にないものを」ということ。
特別感を求めていたのです。
そこで私が今までに扱ったことがないものを提案しようと思いました。
そのときにSANEIのカタログを見てmorfaが目に入って、多分これだって直感しました


SANEIカタログのmorfa掲載ページ

morfaは水栓が見えないデザインになっており、収納がたっぷりなのもユニークな点だ。
そしてなにより流れ出る水のデザインが美しい。

しかし導入には、ひとつ大きな壁があった。
施工担当からマンション向けのアイテムで戸建て住宅には使ったことがないという。

通常はこのような懸念を伝えられたら仕方がないと諦める方向にいくが、「他の家にないもの」を求める今回のクライアントは逆に使いたいという思いをさらに強くしたそう。
コストもかなりかかる工事ではあったが、完全にクライアントのプライオリティを理解している久保田さんは他を削ってもmorfaを採用すべきと推し、最終的にSANEIの設計も関わり、検証の末に無事設置することができた。

私はその時のストーリーを知っているのでここでなしっていうのは、なんかあり得ないなと思い、「他を削ってでもやりましょう。これは住宅で一番のりですよ」と勧めて設置しました。
これがメーカーの営業さんや施工業者さんだったら、「じゃあ金額を抑えるために、morfaはやめましょう」と一言で終わっちゃう話なんですよね。

インテリアコーディネーターとして、ただカタログからアイテムを選んだというだけでなく、様々な人が携わってる、その辺の経緯もクライアントに話をして、採用してもらった形ですね。


スペースハウスに導入されたmorfa

 

morfaの魅力

morfaの使用感についてクライアントの満足度も高いようで、クライアント本人も

morfaを軸に色々決めていったので、結果的に洗濯機を置かないインテリアデザインになりました。
リビングや寝室とはまた違った心地よさを感じられ、使うというより過ごすという感覚が強くなりました。

また、使い心地もとても満足しています。
不規則に囁くように流れ出る水は「気」を感じられるかのようでずっと見ていられますし、正直に言って朝、水を流しながら瞑想したりもしています。

一つの「デザイン」というものが床材、クロスなど外へ広がって空間をつくり出せる力を持っていると言う事は、その「デザイン」が卓越しているからだと思いました。
これからも手洗い場ではなく、心の洗い場所として使用させていただきます。

との喜びの声が届いている。

このユニークで美しい洗面スペースは、久保田さんをはじめ、クライアントのこだわりに寄り添った関係者全員の努力の結果誕生し、今も生活に潤いを与えているものなのである。

morfaイメージムービー
 
 

水まわりは、心を豊かにする空間

インテリア専門家としての腕の見せ所は意外にも水まわりなのではないだろうか。
クライアントの求めるものを形にするため、ソフトとハードの間を行き来し、ときには施工者との間に立って通訳のような役割を果たしながら、空間を巧みに整えていくインテリアコーディネーターという仕事について水まわりのセレクトを中心に話をうかがった。

久保田さんの言葉でもっとも衝撃だったのは「水まわりは冒険できる」という一言。

繰り返しになるが、水まわりは無難に、既製品をそのまま使って予算を抑えるという考えは依然として一般的だ。
しかし今は水栓器具にデザイン的な選択肢も増えている。
もちろん機能的にも劣らない。
もし水まわりは無難でよいと考えている人も一度冒険を検討してみてもいいのではないだろうか。

またマンション用の器具を一般住宅にも使用できないかとメーカーに問い合わせたエピソードも印象的であった。
このような要望や問い合わせはメーカーにとっても大変大きなヒントになるはず。

コロナ禍を経て、「家」というものの存在は、私達にとってより重要なものとなった。
なかでも水まわりは、衛生面はもちろんのこと、団欒やリラックスなど暮らす人の心身を守るためにもより充実させたい空間だ。
少しでも気分良く使えるよう、ぜひとも新しい視点を試してみてほしい。

※文中の久保田さんの写真はショールームWAILEAで撮影されたものです。


スペースハウス詳細データ
設計・施工/挽野建設株式会社
延床面積/139.53㎡
家族構成/クライアント・お父様
所在地/群馬県
住宅の構造/木造在来工法
竣工時期/2019.11

EMU_interior design代表
久保田 絵美

インテリアコーディネーター

群馬県でフリーランスのインテリアコーディネーターとして活動。
戸建住宅やマンションのインテリアコーディネート、モデルハウスのトータルプロデュース等手掛ける。

何気ない毎日の暮らしを丁寧に…
目にみえないデザインを大切にしながら…
「心と身体の豊かさ」を感じられる、品格のある美しいインテリア空間をご提案します。

Project
令和元年住まいのインテリアコーディネーションコンテスト・事例分野新築部門優秀賞

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